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嶺上航路

興味関心のおもむくままです

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咲「さあ、夢を見よう。」 (下)

咲「さあ、夢を見よう。」 (中) からのつづきです。







――――――




絃「どうも。宮永さんの話を私に……というのは、やはりあの大会のことですか?」

絃「そうそう。その時まではほとんど無敵だった宮永さんは、個人戦での復帰緒戦のあの大会で惨敗……というほど酷い結果でもなかったですけど」

絃「その大会ではいろいろあって、とにかく、久しぶりに1位も連対も外してしまって」

絃「それで勝ったのが、私でした」

絃「……」

絃「……そうですね。見ようによっては、私が勝ったというより宮永さんが負けた、と言った方がしっくりくるような試合でした」

絃「ところで。その話を振るんでしたら、私よりもふさわしい選手がいるのでは? と思いますが」

絃「そうです」

絃「宮永さんを執拗なマークで潰した、愛宕洋榎さんのことです」




――――――




絃「……ええ。彼女のしたことに関しては、今でも時々議論が起こされるようですね」

絃「あの対局を見ていた人なら、誰もが気になることだったと思います。同席していた私も、同じように感じていました」

絃「あの時期、他家が宮永さんのツモやカン材を喰い取るのはよく見た光景でしたが、あそこまでしつこく狙っていたのは……」

絃「……そうそう。あの卓で愛宕さんが和了ったロンは、全部宮永さんからでしたね。山越しも二回はありましたっけ」

絃「半ば偶然とは思いますが、狙ったような槍槓もありましたし、あれは威嚇やブラフではなく完全に宮永さん一人を標的にしていたのだと思います」

絃「いえ、全然構わないと思いますよ? ルール上はなんの違反もありませんし、愛宕さんは、宮永さんより上の順位に行きさえすれば勝てると思ったのかもしれませんし」

絃「事実、愛宕さんは宮永さんより上の3位でした。私としては、漁夫の利を得たようで釈然としない点もありましたが……」

絃「ま、そのくらいですか。申し訳ないですけど、一年近く前の対局なのでそれ以上のことはあんまり……」

絃「……いえいえ、こちらこそ。取材とはいえ、思い出を振り返るようなお話ができて楽しかったです」




――――――




郝「へぇー……。愛宕さんは、高校時代に清澄と対戦したのを参考に打っていたんですか」

郝「確か、あの年の姫松の大将は……末原……でしたっけ? 分析派の打ち手だったと記憶していますが、愛宕さんはその方の打牌を参考にしていたのかもしれないですね」

郝「覚えてますよー。当時は私にとって初の日本、初のインハイでしたし、智葉やネリーが対戦してた打ち手たちは特に印象深い人ばっかりで……」

郝「おっと、話を逸らしてしまってすいません。今は咲の話でしたね」

郝「私から見た咲のことを訊きたい、と伺っているのですが、どの時期の話をすれば?」

郝「去年の春~夏……ですか。……とすると、咲の海外遠征についてもなにか言った方がいいですかね?」

郝「……わかりました。では、そのことから話すとしましょう」




――――――




郝「私が咲と初めて話したのは、高一の季節休みの頃です。智葉と照が元々親交があったのですが、その縁で、照や咲とたまに中国麻將を打つようになりました」

郝「元は智葉が照に持ちかけたそうで、名目上は『海外のルールで戦う予行演習』でした。まあ、実際は遊びやレクリエーションのようなものです」

郝「とはいえ、麻雀ではありますし全員が真剣にやっていました。当然一番強いのは私なわけですが、ルールに順応してからは照も咲もいい打牌をするようになりましたよ」

郝「その上で言いますが、あの時期……」

郝「去年一昨年の絶頂期であれば、咲は間違いなく海外でも通用したと思っています」

郝「まあ、調整に多少の苦労などはしたでしょうが」




――――――




郝「事実、当時の咲は海外の強豪を招待して行われる雀王戦、竜王戦を見事に制覇しましたでしょう?」

郝「……日本の招待タイトルは、賞金が高いので海外でも結構有名なんですよ。友人の明華も、あの年の竜王戦に参加していましたね」

郝「それもあって、咲の名前は私たちの国でもしばしば話題にあがっていました。『日本にえらく強い打ち手が出てきた』と」

郝「照が海外遠征している時期でしたが、姉妹でどうこうというより咲個人の強さだけで注目を浴びていたと記憶しています」

郝「……あ、そうなんですか。日本代表として親善試合を戦っていたときも、常に1位を確保してたと」

郝「大きな国際大会に参加してたわけではないですよね? でも、それはそれで参考にはなるのでしょうね」




――――――




郝「ま、それだけ咲は海外から注目も浴びてたわけです。だからこそ気になるのですが……」

郝「なぜ、咲は個人戦から身を退いたのでしょうね?」

郝「…………」

郝「……ご存知かと思いますが、私は一週間後の雀王戦に備えてこうして来日しています」

郝「去年はあいにく都合がつかないので参加できませんでしたが、無敗の名を剥奪されてなお、咲がこのタイトルを二連覇したと聞いた時は思わず胸が高鳴りました。それなのに……」

郝「……ええ。今、私も貴方と同じくあのときのことを思い出してました」

郝「咲が海外遠征の意志を表明した、あのときのことをです」




――――――




郝「咲は、大阪の大会で連対から外れたんですよね? それを除けば、上半期はチーム戦でも個人戦でも連対だけは外さなかったと聞いています」

郝「前年と違って常に1位の『全勝』ではないですけど、ほとんど『無敗』のようなものですよね。それでいて、雀王や王位のようなビッグタイトルは変わらず勝ち取っていたとか」

郝「で、ええと…………そう、それです。名人戦を勝った後、咲はこう言ったんですよね」

郝「『国内での格付けは済んだので、次の地和戦を勝ったら海外遠征を考えます』と」

郝「麻雀という競技で『勝ったら』という仮定ほどアテにならないものも少ないですが……咲の実績と実力を考えると、妥当な宣言ではあると思います」

郝「それで、あの結果が待ち受けていたというわけです」





~~~~~







(ブーーーーーーーーーーーーッ……)



えり「試合終了ーっ。八冠保持者宮永咲が海外遠征プランを発表した上で臨んだこの地和戦、対局者たちを待ち受けていたのは劇的な幕切れでした!」

咏「いやぁ~、見所の多い試合だったねぃ! 混ざれなかったのが悔しいっすわー、ほんと」

えり「各選手、持ち味を大いに生かし切った好勝負でしたね」

咏「それよそれ。野依さんは序盤に奪ったリードでかなりいいとこまで粘ったし、赤土さんは他家の様子を巧みに窺いながら上手いこと抜け出てきてさぁ」

咏「宮永は終盤とんでもねぇ勢いで追い込みかけたし、大星は中盤からスパートかけて見事に押し切っちまったねぃ。知らんけど」

えり「宮永選手は後半戦の東一局で倍満に振り込む不運がありましたが、それでも体勢を建て直してラストのデッドヒートを演出しましたね」

咏「わっかんないかなぁ~? あれを宮永の不運と断じちゃうようじゃぁ、えりちゃんもまだまだだねぃ」

えり「断じてはいないですけど。三尋木プロ、どういうことか説明してもらっても?」

咏「あの倍満は和了った赤土さんを褒めるべきってことさ。そりゃ多少の運の良し悪しはあったろうが、ま、あの人の読み勝ちってことだねぃ」

えり「読み、ですか。対局中は進行もあって伺えませんでしたが、どういうことか説明してもらっても?」




――――――




咏「いや知らんし。んなことより、中継のカメラもさっさと選手インタビューの方に移した方がいんじゃね?」

えり「…………」

咏「まあまあえりちゃん、そう睨まないでよ。尺がやばいのは事実だし、現時点での中途半端な憶測を言うより黙っといた方がいいかなって思ってさ」

えり「……えー、視聴者の皆さま。こちらの中継室からは、そろそろお別れの時間となってまいりました」

咏「カメラさん、早く早く! 私たちはいいから大星たちの方にカメラ回せってば!」

えり「はぁ……。……実況は私、針生えりと」

咏「三尋木咏でお送りしたよんっ」

えり「第42回地和位戦、激戦を終え悲願の戴冠を果たしたのは大星淡選手でした! 中継を終わります……」





~~~~~





郝「……」

郝「咲も本当に律儀ですよね。700点差の惜敗であれ、宣言にたがわず海外遠征を白紙にしたと公言したのですから」

郝「今になって惜しいとは言いません。私の相手は咲だけではありませんし、個人戦から身を退いたとて、いずれ咲とはプロの場で相見える日も来るでしょう」

郝「さて、私の話はこれで十分ですかね。名残惜しいですが、そろそろおいとま……」

郝「最後に一つだけ? 別に構いませんが、何を訊くおつもりで?」

郝「……ええ、去年も一昨年も咲とはプライベートで打ちましたよ。さっき言った二人も交えて、中国麻將の方を」

郝「え? 『その頃の咲は貴方たち三人より強かったか』ですって? 『麻將のルールに順応してからの咲がどれだけ打てたか気になる』……と」

郝「うーん……。難しい問いですね……」




――――――




郝「いえ、記録はとってませんが成績は一目瞭然でしたよ。なにせあの頃の咲は…………おっと、いけないいけない」

郝「……はぁ。さっき『難しい』と言ったのは、そういう意味ですよ。私を含め、智葉や照にも守るべき体面というものがありますし」

郝「ま、そういうことにしておいてください。今のも記事にしないで、するにしてもとても曖昧な書き方でお願いします」

郝「……あれ? そういえば、『一つだけ』と言ったのに二つも答えてしまいましたね。咲と打ったか否かというのと、咲がどのくらい強かったかというので」

郝「『腐っても鯛』というやつですか。流石、私たちと戦った清澄の元部員です」

郝「……あ、『腐っても』は謝ります。申し訳ありませんでした」

郝「咲の記事が書き上がるのを楽しみにしていますよ。それでは、ごきげんよう」





――――――







結局。


その年の宮永咲は、地和戦後もタイトルを手にすることはなかった。


雀聖戦は出場辞退。本人の調整が上手くいかなかったと公式発表があったが、それは、海外遠征プランが立ち消えになったことと無関係ではないだろう。


迎えた王座戦。宮永咲は、高校時代のチームメイトで切磋琢磨していた原村和に玉座を明け渡すことになる。


当初法曹を志し、前年まで学業に専念していた彼女と個人戦の舞台で激突するのはこれが初めてだった。点差は、たったのリー棒2本分だった。


続く竜王戦では、成長著しい新人の夢乃マホに差し切られる形となった。1500点差の2位で、またしても高校時代の仲間にしてやられた格好だ。


大星淡は予選落ちの総合5位。これで、彼女と咲の奇妙な二人旅にも一つの区切りが打たれることになる。


個人タイトル九冠のうち、二人が一つ違いの順位で終局を迎えたのは連続で10回、足かけ11回にもわたる。


タイトル戦にて二人が1、2位の座を占めた回数は、実に7回にものぼった。


そして、記憶に新しい前年の天和戦。決勝卓で4位に敗れた宮永咲は、3位となった大星淡と共に合同記者会見を開く。


その会見で宮永咲はチーム戦へ専念する意向を明かし、個人戦への出場、及びタイトルへの挑戦の無期限休止を宣言したのである…………。







――――――







咲「……………………」







――――――




咲「……ライターになってたのは知ってたけど、私の記事書いてたんだね」

京太郎「まぁな。ていうか、咲はこうして俺が取材に来るまで知らなかったのか?」

咲「そういうのはマネージャーさんに任せてるから。……にしてもこの記事、『再起を誓う女王に聞く』って……」

咲「随分挑発的な副題だね?」

京太郎「あくまで仮のだから、仮の」

咲「この『女王』っていうのもなんか……まあ、好きにすればいいと思うけど」

京太郎「その怒りようを見ると、個人戦から退いてモチベーションが落ちたってわけじゃないんだな?」

咲「当たり前でしょっ! ……会見でも言ったけど、ちょっと身を退いて、色々と見つめ直すだけだから。ここ二年、チーム戦にも専念できないで迷惑かけてきたし……」

京太郎「その二年間、チームのエース務め続けてたやつが言っても嫌味にしか聞こえないぞー」

咲「……ぐぅ」




――――――




京太郎「で、来年は団体での世界大会やリオデジャネイロのフリースタイル戦があるわけだが。それについてはどう思ってる?」

咲「どうかな……。団体戦の方はメンバーに選ばれれば嬉しいし、出場したい気持ちもあるけど……リオの方は、微妙かも」

京太郎「そりゃ、個人戦だからか?」

咲「……そうだね。京ちゃんならわかると思うけど、私は団体戦で戦うつもりで高校から麻雀に復帰したし、こっちの方がしっくり来るって感じもするんだ」

京太郎「話題を変えるけど。……去年から今年の春までのような麻雀を、これからも打てる自信はあるか?」

咲「ん……」

京太郎「あの時と比べて、なにか直感や読みなんかが衰えてたりする感覚は?」

咲「それはない……かなぁ。多分だけど」

京太郎「自分のことなのに自信なさげだな、咲は。そういうところは昔から変わんねえよな」

咲「むっ」




――――――




咲「自分のことだからって、何から何までわかったらスポーツ選手のトレーナーとかも必要ないでしょ!?」

京太郎「そう怒るなよ。……つーかお前、昔に比べて少しカリカリしやすくなってないか?」

咲「そりゃまあ、ね。誰かさんみたいに、嫌味な人達がいっぱい寄ってくるようになったし?」

京太郎「なっ」

咲「……冗談だよ。そういうのが嫌だと思うこともあったけど、プロの世界なら当たり前だし、京ちゃん達が思うほど私は気にしてないよ」

京太郎「そ、そりゃよかった。……次の話題に移るけど、いま現在国内で注目してる選手は誰なのか、聞かせてくれないか?」

咲「注目してる選手? んー…………、どの選手も強い人ばっかりだしなぁ……」

京太郎「言っておくけど『みんな』とか『いない』って言うのはナシな。一人か二人、理由も込みで挙げて欲しい」

咲「うーん……」




――――――




咲「……和ちゃんとマホちゃんの二人、かなぁ。手前味噌だけど」

京太郎「よく知っていて、かつ自分に勝った相手ってわけか」

咲「そういうのもあるけど、二人とも純粋に強いと思うよ。和ちゃんはどの場所、どの大会で打っても成績を残すし、マホちゃんは勝つ時は誰が相手でも勝っちゃうでしょ?」

京太郎「和はともかく、マホは調子の波が大きすぎて評価に困るよな……。……竜王戦での四連続和了は、日本中が度胆を抜かれたけどさ」

咲「あの時のマホちゃん、まるでお姉ちゃんみたいな……いや、それよりもっと……」

京太郎「え?」
 
咲「な、なんでもない。……ともかく、あれは打ってる私もびっくりしたし、悔しかったなぁ」

京太郎「ちなみに、ノってる時のマホと自分とではどっちが強いと思う?」

咲「えっ? ……状況にもよるけど、同じくらいツいてるとしたら今度こそ負ける気は……って京ちゃん! こんなの、メモに取らないでよ!」




――――――




京太郎「冗談だよ、冗談。さっきの仕返しだ」

咲「もー。……その辺はただでさえ気を遣ってるんだし、こんなの記事にされたらこれからどんな顔して会えばいいのか……」

京太郎「気を遣ってるといえば……咲。ずっと気になってたんだけど、個人戦でずっと競り続けてた大星のこと。お前はどう思ってるんだ?」

咲「どう、って?」

京太郎「何度も顔突き合せて、しかも殆どお前が美味しいところ持ってってるわけだろ? 対局なんかで会ったりしたとき、互いにどういうこと話してたのかなー……とか」

咲「別に……普通だよ。公の場で淡ちゃんと話すときは気を遣うけど、それは他の対局者と一緒だし」

京太郎「記事にはしないからさ。本音のところ、昔のよしみで教えてくれって」

咲「えー?」




――――――




咲「でも、本当に大したことないよ? 今までマスコミの前で話したこと以外、特に記事になるような話もしてないし」

京太郎「確か、照さんが高校で大星と一緒だったろ。その縁でプライベートで会ったりはしなかったのか?」

咲「ないこともない、けど。淡ちゃんとは麻雀は打たなかったし、積極的に話しにも行かなかったかな」

京太郎「へー。大星の方はインタビューやなんかで咲に対抗心バリバリだったのに、お前は薄情なもんだなぁ」

咲「うぅ……そうかな……。……でも、意識はしてないわけじゃなかったし、付き合いも長いからそれなりに思うところはあるよ? 一応」

京太郎「言い方が全然思うところありそうじゃねえよ」

咲「うっ」

京太郎「……ま、高校時代からしのぎを削ってるっつってもベタベタしてきたわけじゃないしな。なんとなくだけど、言いたいことは分かるぜ」

咲「……うん。とにかく、私にとっては強力なライバルの一人だし……。……それに、多分だけど」

京太郎「だけど?」

咲「大事な、友達でもあるよ。……きっと」

京太郎「…………」




――――――




京太郎「……これも、記事には関係ないんだが……」

咲「なに?」

京太郎「ぶっちゃけた話、大星は海外行って通用すると思うかね?」

咲「どうかなぁ。淡ちゃんなら力は発揮できると思うけど、海外で打つっていうのは色々な要素が絡むからなんとも言えないね」

京太郎「つーか、100%出し切れるとしてもいけるのか? って話だよな。こういう言い方は咲にも悪いけど、今年の秋以降は去年から明らかに悪化してるしさ」

咲「それは大丈夫だよ。淡ちゃんは刺激を受けるほど発奮するタイプだし、最近の負けで溜まった分も、きっとモチベーションに変えて向こうで頑張ってくれるよ」

京太郎「刺激、ねぇ……」

咲「?」

京太郎「……いや。ひょっとしてだけど、大星にとっての一番の刺激はお前の存在だったんじゃないのかな、と」

咲「私? でも、私とインハイで会う前からすごく強かったし……」

京太郎「そうじゃなくて、打つ局打つ局勝ちまくって、八冠制覇してたあの時の咲が何よりの刺激だったんじゃねーのってこと」

咲「えぇっ……?」




――――――




京太郎「これは、俺の推測が大分混じってるんだけどさ」

京太郎「咲って、少なくとも高校の時は自分から麻雀打つようなタイプじゃなかっただろ? インハイに参加したのも和や部長に言われて、それも照さんに会いたいから始めたようなもんだし」

京太郎「そういう風に、お前は『自分が自分が』って感じじゃなくて他人に求められて麻雀打つようなところがあると思うんだよな」

京太郎「きっと、プロになってからもそれは変わらなくて。あの時……新人時代の天和位戦でプロのトップクラスに直で囲まれて、その熱に中てられて無双し始めたんじゃないか……ってさ」

咲「無双っ、て」

京太郎「そうだな。『無双』じゃなくて、お前には、大星という自分と並んで走れる最強の宿敵がいた。だから、プロの世界に慣れて全盛期を迎えてからでも弛むことなく全力を出し切れたんだろ」

咲「…………」

京太郎「それが、勝った大星が満足しちゃったからか、単にツキがなくなったからか知らないけど」

京太郎「お互い並んで、併せて煽って走れる相手がいなくなったんで二人ともあの時のパフォーマンスが見せられなくなったんじゃないか、って。……勿論、部外者の勝手な邪推だけどな」

咲「…………」




――――――




咲「……でも、相手を選ぶような人がプロなんて言えるのかな? 仮に京ちゃんの推測が当たっていても、誰かと並べないせいでモチベが落ちるとしたら、それは甘えじゃない?」

京太郎「さすがトッププロ、大したプロ意識だぜ。……いや、からかってるんじゃなくて」

咲「けど、そうだね。大星さんが……。……そういう可能性もある、かもね」

京太郎「おっ? もしかして、咲も刺激を求めて海外へ打って出るとか?」

咲「そんなこと考えてないよ! ……とにかく、これからの私は、個人戦に出てたときに出来なかったあれこれや、チーム戦に集中するので忙しいし。あの会見から、その意思は変わらないよ」

京太郎「つっても、その口ぶりからすると、海外に挑戦したりまた個人戦に出たりする未来を否定するわけじゃないんだな?」

咲「まあ、可能性の一つとしてね。今はこれ以上言いませんし、言えませんからねー」

京太郎「なるほどね。……うん、取材はこれくらいでいいや! 話してくれてありがとよ、咲」

咲「……あっ。京ちゃん、ちょっと待って」

京太郎「ん?」




――――――




咲「京ちゃんが書いてきた私の記事、どんな感じなのか見せてみてよ。メモの段階でもいいからさ」

京太郎「ええ!? ……いや普通に恥ずかしいし、完成したのはお前のマネージャーにも目を通させる約束だから別にいらないと思うんだが」

咲「私が見たいって言ってるの。そもそも、昔のよしみだからって記事に書かないことまで聞いてきたり何度も嫌味や冗談を言ってきたのは誰だったっけ?」

京太郎「……ったく。次の予定もあるから、パパッと読んじまえよ」

咲「やたっ。どれどれ……」

京太郎「…………」

咲「ふんふむ……」

京太郎「…………」

咲「…………」

京太郎「……咲、そろそろ」

咲「……あっ、うん。記事の内容は今のところ文句ないんだけど、この部分はなに?」

京太郎「へっ?」

咲「ほら、ここ。『勝ち続けると……』ってとこ」

京太郎「……ああ、それはな」




――――――




京太郎「見出しみたいなもんさ。こういうのにありがちな『〇〇の素顔を追う~』ってのじゃなくて、気取った風のフレーズにしてみたんだ」

咲「文字数多すぎるし、これじゃ見出しにならなくない? ……ていうか、書いてることが大げさだし恥ずかしいんだけど……」

京太郎「まあまあ。……ってわけで、咲もなにか一筆書いてくれよ」

咲「えっ!? どういうわけで!? なにを書くの!?」

京太郎「だから、この文に続く形で、手書きのメッセージをさ。そしたら多少は恰好がつくし、記事の箔も増すってもんだろ?」

咲「えぇ~っ?」

京太郎「頼む、咲! 昔馴染みを救うと思って!」

咲「もー、調子がいいんだから……。……じゃぁ、ちょっとだけね。字とか内容とか、変になってもバカにしないでよ?」

京太郎「しないしない。ま、よほどアレなのは流石にリテイクだけどな」

咲「はいはい。今考えるから、ちょっと待ってて」

京太郎「おう。書き終わるまで、俺はなんにも言わないからな」

咲「ん。…………よし、書くよ」

京太郎「……」

咲「……」



咲「……っ!」







――――――






勝ち続けると、すべての者が敵になる。



その打ち手は、完全に包囲された。



道は消えたはずだった。



宮永咲。お前は何故あの卓に花を咲かせることができたのか。



『年間全勝のレジェンド』



その戦いに、人は夢を見る。 






――――――














『さあ、夢を見よう。』












      
                   
――――――









―(完)―




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  1. 2015/08/17(月) 14:15:42|
  2. 自作SS~咲-Saki-~
  3. | コメント:2
<<第一回咲ワンを終えて~雑感&第二回咲ワンへの見通しなど~ | ホーム | 咲「さあ、夢を見よう。」 (中)>>

コメント

この話は大好きだったので、咲ワンにエントリーされているのを見て心が躍りました。
この際JRACMでシリーズ化していただけないものかと(爆)
  1. 2015/08/18(火) 02:02:01 |
  2. URL |
  3. せーや #f6QV87ss
  4. [ 編集 ]

>せーやさん


お褒めの言葉ありがとうございます。ブログ見てます!
 
シリーズ化までは考えてないんですが、淡が性格・能力や名前的にディープインパクトと被るイメージあるので、そのイメージが形になったときはまた目にしていただけると幸いです…!
  1. 2015/08/19(水) 01:14:34 |
  2. URL |
  3. #-
  4. [ 編集 ]

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