嶺上航路

興味関心のおもむくままです

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咲「さあ、夢を見よう。」 (中)

咲「さあ、夢を見よう。」 (上) からのつづきです。







――――――




照(対局、始まった……。格好こそ痛々しいのに、咲は平気そうに卓に座ってる……けど)

照(こんなときに解説なんて、いやだなぁ。でも、私はプロだしきちんと仕事はしないと)

照(……このメンバーが打ってるなんて、今年の天和位はかなりレベルは高かったんだろうな。だからこそ、咲が……)

照(咲、お願いだから無理だけはしないで! あなたにはこの天和位だけじゃない、これから先も彼女たちと同等、いや、それ以上の実力の打ち手と全力で麻雀できる日が待ってる……)

照(だから、咲……咲…………)

照(…………)




――――――




えり「……第42回天和位戦もいよいよ大詰め、最後の南場を残すのみとなりました。……照さん、ここまでを振り返っていかがでしょうか?」

照「その前に、現在の得点順位をもう一度……。……今、画面出ましたね?」


天江衣 35100

大星淡 30800

高鴨穏乃 24300

宮永咲 9800


照「見ての通り、打点の高さに優れる天江選手と大星選手が上位に立っています。それを、高鴨選手と……やや離された宮永選手が追う形ですね」

えり「高鴨選手は先ほどの東三局と四局で連続和了。うち一つは大星選手に対する満貫の直撃でした。勢いがあるのは、やはり彼女でしょうか?」

照「高鴨選手もですが、天江選手には場や時刻が進むほどに成績が良化していく性質があります」

照「大星選手と宮永選手はそういった場に関わらず強さを見せますが、特に大星選手は頭に血が上りやすい傾向があるので、若干心配ではありますね」

えり「照さんは大星選手と高校の先輩後輩同士でしたが、その頃からそうした傾向が?」

照「そうですね。……ただ、今年の大星選手は非常に安定した成績を収めていますし、先ほどの直撃も、却って一息入れるいい機会になったかもしれません」




――――――




えり「宮永選手はどうでしょう? 逆転の目は充分にあるでしょうが、やはり、厳しいですか?」

照「……前半の東場は、他家を見つつ嶺上開花で和了るという普段通りの麻雀ができていましたが。途中からどうも元気がないですね」

えり「……それは、やっぱり……その、」

照「……対局直前に本人と少し話をしましたが、報道陣に伝えたのと同様に『大丈夫』とのことでした」

照「アクシデントの影響がゼロとは言えませんが、ここまで来た以上私たちに言えることは…………ありません」

照「……宮永選手には、奮起して本来の麻雀を見せて欲しいところです」

えり「……ありがとうございました。そろそろ、卓上に目を戻していきましょう」

えり「さあ下半期、そしてこの一年間の総決算ともいえる冬のタイトル天和戦。いよいよ、最後の南場がスタートします……!」




――――――




南一局 親:大星



淡「……」


穏乃「……」


衣「……チー」


穏乃「! ……はい」


穏乃(海底コース……。それでも、始まってばかりの5巡目で天江さんが鳴くことはかなり稀だったはず……?)




――――――




穏乃「……」


衣「……」


咲「……」


淡「…………」


淡(揃いそうで揃わない。衣とやるときはいつもこうだって分かってたけど、やっぱりムカつくなー……)




――――――




衣「……」


淡「ポンッ!」


穏乃(仕掛けてきた? 張ったかもしんないし、ここは慎重にいきたいけど……)


衣「……」


咲「……」


淡「……」


穏乃「……「ロン」


淡「中ドラ2。5800」


穏乃「……はい」



大星淡 36600

天江衣 35100

高鴨穏乃 18500

宮永咲 9800




――――――




えり「後半戦初の和了は大星選手です。これで、東三局以来のトップの座を奪い返しました」

照「今のは、普段の火力重視のものとは違い速攻を重点に置いた和了でしたね」

えり「前二局で高鴨選手に傾きかけた流れを、引き戻そうとしたと?」

照「断定はできません。ですが、天江選手と大星選手の相乗支配によって全員の手が遅くなる中で、数少ない速攻の機会を狙うのはありそうな戦術です」

えり「……いわゆる、『絶対安全圏』に『一向聴地獄』という代物ですか」

照「ええ。しかし、それも常に適用されるというわけではないでしょう」

照「あの卓には、それらをすり抜け……いえ。それらの遙か高みから、駆け抜けていける打ち手がいますから」




――――――




南一局 一本場 親:大星



淡「……ノーテン」


穏乃「ノーテンです」


衣「テンパイ」


咲「ノーテン」


淡(……わかりやすいことしてくれちゃって。そんなに私が怖いのかな)


穏乃「……」


衣(行住坐臥。望外の点棒を得、先刻よりは手を作るのも易かったが……。……あと一局は判断を待ってもよかろう)


咲「……」



天江衣 38100

大星淡 35600

高鴨穏乃 17500

宮永咲 8800




――――――




南二局 流れ二本場 親:高鴨



淡「テンパイ」


穏乃「テンパイ」


衣「……テンパイ」


咲「……ノーテン」



天江衣 39100

大星淡 36600

高鴨穏乃 18500

宮永咲 5800




――――――




えり「一転、静かな試合運びとなりました。天江選手がトップに返り咲き、上位二人は下位との差を広げています」

照「今、場の主導権は高鴨選手が握っていますね。大星選手は、高鴨選手の出方をうかがいながら出し抜く機を見計らっているのかと」

えり「20000点差で3位の高鴨選手が……ですか? それでは、首位の天江選手と、最下位に甘んじる宮永選手はどうでしょう?」

照「……カメラからの表情では読み取れませんね。ただ、宮永選手に関しては……」

えり「……唯一の連続ノーテンとまさに包囲された形となっていますね。しかし、得意の対子手を作りながらいずれも一向聴までは……」

照「天江選手が同卓してる以上、それは他家も想定内のはずです。私が言いたいのは、むしろ……」

えり「? 宮永選手をマークすることが、場の三人には織り込み済みということでしょうか?」

照「それもありますが、互いにマークし合いつつ得意の形に持っていこうとしている他の三人とは違うなにかを、宮永選手からは感じます。……この感じは……」

照(そう。咲は、他家を出し抜こうとか自分の策を展開しようとかいうベクトルの考えを持っていないような……)

照(……あの子だけが、なにかに縋っている……?)




――――――




南二局 三本場 親:高鴨



淡「……」


穏乃「……」


衣「……」


咲「……」


淡「……」


穏乃「ツモ。2000の三本場は2300オール」


淡「……ッ」


衣(……否、まだ断定できぬ)


咲「……」



天江衣 36800

大星淡 34300

高鴨穏乃 25400

宮永咲 3500




――――――




南二局 四本場 親:高鴨



淡「……ノーテンッ」


穏乃「テンパイ」


衣「ノーテンだ」


咲「……テンパイ」


淡(くっそぅ……衣も穏乃も警戒しなきゃいけないとか面倒くさすぎ! サキは相変わらずよくわかんないし……)


穏乃「……フー」


衣(……穏乃め、衣たちの気を誘い欺罔しようとは大した度胸だ。恐らくは彼奴を囮に使おうと画策したか……)


咲「……」


衣(……まあいい。これで衣の肚も決まったぞ)



天江衣 35300

大星淡 32800

高鴨穏乃 26900

宮永咲 5000




――――――




南二局 五本場 親:高鴨



淡「……」


穏乃「……」


衣「……「ロン」


穏乃「3900は5400です!」


衣「なっ……!」


淡(た、高鴨穏乃……!!)


咲「……っ」



大星淡 32800

高鴨穏乃 32300

天江衣 29900

宮永咲 5000




――――――




えり「て、照さんの解説通りに高鴨選手が急浮上! この和了で首位と500点差の2位に浮上しました!」

照「きっと、三本場か四本場の時点で大星、天江両選手は高鴨選手の狙いに気が付いたはずです」

照「……つまり、後半戦から動きを見せず、かつ実績でずば抜けている宮永選手を二人がマークしている内に連荘か高目で点棒を奪う」

照「恐らくはそれが高鴨選手の狙いだったはず」

えり「……それでは、渦中の宮永選手の様子はいかがでしょうか?」

照「微妙ですが、宮永選手もそれを看破している節はあります。高鴨選手の作戦が看破されたとき、大星、天江両選手からの自分へのマークが相対的に薄くなりますから」

照「その証拠に、四本場では流局ながら久しぶりの得点。振り込みもありません」

えり「なるほど……。では、策を見破られながらも高鴨選手が直撃を奪えたのはなぜでしょう?」

照「もちろん、運もあります。ですが高鴨選手は、二人が自分を意識し、仕留めに来る……その態勢を整える際に生じる、一瞬の隙を狙い撃ったように見えました」

えり「つまり、見破られることを考慮した上での策だったというわけですね。普段の試合でも時たま見せる独特な感性を、ここでも十二分に発揮したということですか」

照「ええ。しかし、その策を見せきった高鴨選手はこれからどうするか……注目のしどころですね」




――――――




南二局 六本場 親:高鴨



淡「……」


淡(逆転はされたけど、絶対安全圏にいる以上速度では私が有利。だからこそ……)


穏乃「……」


穏乃(……南場までに考えた範囲じゃ、ここまでが限界! あとは野となれ、山となれ!)


衣「……」


衣(穏乃の奴、心憎い真似をする。衣の採るべき由は……)


咲「……」


咲(……どんな手でも。どんなことが、あっても……)




――――――




淡「リーチ!!」


淡(速度で私が優位な以上……待つことなしに、一番の形で攻めにいく!!)


穏乃(はやっ……6巡目!?)


衣(気が充溢しているな。ここで衣と穏乃の支配を破るとは……寧ろ欣喜雀躍の心地だ!)


咲「……」


淡「……」


咲「ポン」


淡(サキがポンか。生牌注意したいけど……しょうがないし、このまま和了る!)




――――――




淡(カドまであと少し……いや、その前に和了るつもりでいく!)


穏乃(マズい……覚悟はしてたけど、また一向聴からちっとも進まない……)


衣(お前らには和了らせぬよ。なぜなら……)


咲「……チー」


咲「……」


淡「……」


衣「ポン」


穏乃(海底コース? ……いや違う。じゃあ、なんで……)


咲「……」




――――――




咲「ロン。1000の六本場は2800」


穏乃「! ……はい」


衣「…………」


淡(サキが!? ……ううん。この和了は、今まで私が対戦してきたサキとなんか違うような……)


淡(それに、カドを過ぎてカンしたのに和了牌を引けなかったは穏乃のせい? ……いや、もしかしてっ)




――――――




淡「……なるほどね。そういう手も、たまには使うんだ?」


咲「……えっ? 淡ちゃん、今なんて……」


淡「なんでもないよ。サキは気にしないで」


穏乃「大星さん? わかってると思うけど、あまり露骨なのは」


淡「ご忠告どうも。三味線なんかで勝っても嬉しくないし、さっさと進めるよっ!」


淡(ていうか今の、アンタたち二人に言ったんじゃないし……)



大星淡 31800

天江衣 29900

高鴨穏乃 29500

宮永咲 8800




――――――




えり「長かった南二局がようやく終わりました。宮永選手は後半戦初の和了。高鴨選手の躍進により、順位間の点差は南場開始前と比べかなり小さくなっています」

照「……今の宮永選手は、なんとか拾ったという感じの和了でしたね」

えり「確かに、和了形は喰いタンのみの最安手でした。しかし、これで高鴨選手の流れを喰い取ったとも考えられるのではないでしょうか?」

照「おっしゃる通り。どんな手であっても、あの状況で和了り、得点することで宮永選手はかなり楽になれたと思います」

照「しかし、宮永選手一人の力であれを和了れたというわけではないでしょう。大星選手のリーチや天江選手の鳴きが場全体を左右した、その影響がああいう形になって現れたのだと思います」

えり「照さんの言う通りであれば、まさに今年一番の、天和戦に相応しい駆け引きと運比べ、力比べが行われているといえるでしょう」

えり「いよいよ、足かけ四日間にわたる天和戦、選ばれし四者の決着が近付いてきました! 残すは南三と南四の二局です!」




――――――




南三局 親:天江



淡「……」


穏乃「……」


咲「ポン」


淡(まだ7巡目なのに? ……いや、必要以上に警戒することはない)


穏乃(ヤバそうな気配はしないけど……生牌切るとき要注意っ)


衣「……」


咲「……」


衣(ふっ。穏乃め、利用していた傀儡にしっぺ返しを食らったばかりというのに元気だな)


衣(否、傀儡と称して遊ぶには軽々か。如何な状態にあれど、この卓に座して打つ限りは遍く対局者を軽視してはならぬ)


衣(……が、殊ここに於いて咲を使わない手は……ないだろうな)




――――――




衣(四人が四人共重い手作りを強いられている中であっても、頻繁に不均衡が生じ、誰もがその機を逃さんとしている)


衣(衣と淡、そして後半からの穏乃の支配によって卓上は正に黄塵万丈といった具合だ)


衣(その中で、咲。努々侮るまいが、余裕のないこの姿……まるでめしいた駑馬にしか見えぬ)


衣(余力は感じる。が、さながら五里霧中のこの状況……尻を叩かれ、半歩先の草の匂いでも感じ取れば走らずにはいられんだろう)


衣「……」


咲「……チー」


淡(はぁっ!?)


穏乃(宮永さん? この巡目でその鳴きは……)




――――――




淡「……っ」


穏乃「……っく」


衣「リーチ」


咲「……!」


咲(……海底コース……)


淡(なに「しまった」みたいな表情してんの!? サキのばかばかばか……!)


淡(どんだけ点欲しいのかはわかるけど……そんな牌鳴いて衣に主導権渡すなんて)


穏乃(……止められないっ)




――――――




衣「ツモ! リーチ一発、ドラ1海底撈月」


衣「4000オール!」



天江衣 41900

大星淡 27800

高鴨穏乃 25500

宮永咲 4800




――――――




えり「天江選手、ここにきて得意の海底撈月から満貫手を和了。2位以下に差をつけ、再びトップに立ちましたが……」

照「副露を活用して、最後のツモ番が自分に回ってくるようにする。天江選手の得意パターンです」

えり「この局で言えば、他家の副露を利用したということでしょうか?」

照「私にはそう見えました。天江選手は、他家のテンパイ気配や手役の大きさを敏感に察知できる打ち手です」

照「先ほども言ったように、今の宮永選手はとにかく得点に飢えており鳴きも増やしています。そこを、天江選手は上手く釣り出して海底コースに持ち込んだようです」

えり「ところで、これで後半戦の南場は今のところ全て親の連荘となっていますが……現在親の天江選手と、ラス親の宮永選手はどう出るとお考えでしょうか?」

照「……わかりません。きっと、対局者たちも積み棒に関係なく一局一局で最善を尽くすことに懸命になっていると思います」

えり「ありがとうございました。さあ、南三局の一本場です!」




――――――




南三局 一本場 親:天江



淡「……」


淡(……ここ。この局か、次の局のどっちかで和了る。絶対に和了ってやる!)


淡(配牌も第一ツモも相変わらずの一向聴。それでも、勝つためにはここで……)


穏乃「……」


穏乃(積み棒のお陰で、8000の直撃でも1位を取れる。それでもオーラスが残ってるし、本場よりもそこだけを目標に)


穏乃(まずは、点を取られない! んでもって、どんな安手でもいいからオーラス前に先手を取る!)




――――――




衣「……」


衣(やはり、先刻のは衣の麻雀ではなかったな。同じ手を続けて二度食う手合いでもなかろうし)


衣(それでも差は開けた。2位3位の二人、親番が回らぬ以上択は限られている……ここで畳み掛けない道理はない!)


咲「……」


咲(…………)


咲(……この位置じゃ、やれることは決まってるよね。……そのときが来たら、必ず……!)




――――――




淡「……っ」


淡(迷うな私! ここで行かないでいつ行くっての……!)


淡「リーチッッ!!!」


穏乃(きたっ。あと2巡か3巡後にはカドを越えるけど……私がすべきことは……)


衣(鳴いてズラすか……? 否、急を凌ぐだけで躱せるはずがあるものか! ここは支配に全力を注ぐ!)


咲(……)




――――――




えり「このリーチは大きい! このまま誰かが和了ることになれば、誰であれターニングポイントの和了になるでしょう!」

照「針生さんのおっしゃる通り。後半戦南場の卓は、流局も多くある意味停滞していると言っていい状態でした」

えり「天江選手の満貫和了がその空気を破ったということでしょうか」

照「そういう見方もあります。大星選手の手牌は、三色と赤ドラがあるので満貫以上が確定していますし」

えり「大星選手はこの天和戦において予選リーグで4度、決勝での前半戦で1度カン裏4つをつけて倍満以上を和了していますが……」

照「今回は、リーチ以外の役も付いていますしカン材を引いても宣言しない可能性はあります。得意技とはいえ、カンはリターン以上にリスクを伴いますから」

照「それでもなお、強固な攻めの意志を持って宣言するのであれば……」

えり「……であれば?」

照「その意志に、牌はきっと応えてくれるでしょう」

照「あわ……大星選手は、今も昔もそういう打ち手ですから」




――――――




淡「カン!」


穏乃「!!」


衣(及ばぬか……いや!)


咲「……」


淡「……」


穏乃「……っ」


衣「…………」


穏乃(……いつもと違って、カンしてからの即和了じゃない。やっぱり、私たちの支配は効いている……?)


衣(しかし、一向聴が既に破られている中では依然安心できぬ。如何なる手を使ってでも完歩を伸ばし、大星に並ばなければ)


咲(…………)




――――――




淡「……っツモ!!」


穏乃「!」


衣「っ」


咲「あ……」


淡「リーチ、ツモ、三色赤1……」


穏乃「……っ」


衣「……」


咲「……」




――――――




淡「裏3は、4100-8100!」


穏乃(裏4じゃなくて3ってことは、もしかして……)


衣(穏乃にカン裏を支配されて尚……或いは、能力に依らず己が天命を以てドラを引き込んだということか……)


咲(…………)



大星淡 44100

天江衣 33800

高鴨穏乃 21400

宮永咲 700




――――――




えり「大星選手、オーラスを前に倍満和了ー! 果敢に打って出る姿勢が、これ以上ない結果として現れました」

照「見事、だと思います」

えり「この天和戦も、残るはただ一局となります! ここまで来ると、やはり勢いや流れからして大星選手が優勢でしょうか?」

照「……そう、ですね。2位の天江選手がまくるには5200以上の直撃かハネ満以上をツモ和了る必要がありますし、点数的にも大星選手が俄然有利です」

えり「長かった天和戦もこれで最後。……気が早いようですが、宮永プロ。ここまでこの対局を見てきて、なにか特別感じたことなどありますでしょうか?」

照「…………」

照(…………)

照「……やっと、ここまできたな……という感じです」

えり「そうですね。この一年の締めくくりともいえるタイトル戦ですから、TVなどでご覧の方々も同じことを思っているでしょう」

照「いや、私が言いたいのは……」

えり「?」

照「……なんでもないです。針生さん、実況解説に戻りましょう」

えり「そうですね。2位に10300点差をつけて現在の1位は大星選手、オーラス南四局のツモは既に3巡目に入ろうというところです……」




――――――




照(咲……。あなたは、本当によく頑張ってる。あの状態でこのメンツ相手にここまでやれるなんて、正直考えてもなかったよ)



照(きっとあなたは、こんな絶望的な状況でも諦めず逆転を狙って、この麻雀を楽しんですらいるのかもしれない。……でも、そんなことはもうどうでもいい)



照(咲……! どうか、この対局を無事に終えてまたいつものように…………)




――――――




えり「ーーーー!!!」

照「……っ?」

えり「宮永選手が、逆転に望みをつなぐ3900の首位直撃! 2位以下との差も詰まって、まだまだ天和位の行方はわからなくなってきました!」

照「……えっと、今の和了は……字牌アタマの対々です、ね」

えり「場風の南をアタマにしてのカンチャン待ちでした。喉から手が出るほど得点が欲しい中で宮永選手、あくまで冷静です」

照「……そうですね。宮永選手は、まだ、諦めていません……!」

えり「天和戦は親の和了やめが認められているので、宮永選手の逆転和了、優勝も十分にあり得ます。これはその序曲となるでしょうか」

照「……宮永選手にはっ、それを期待したいところ、です……!」

照「……っ」

照(……咲!!)



大星淡 40200

天江衣 33800

高鴨穏乃 21400

宮永咲 4600




――――――




南四局(オーラス) 一本場 親:宮永 



淡「……」


穏乃「……」


衣「……!」


咲「……」


淡(……クッ。やっぱ、そうそう南三みたいにはいかないか……)


穏乃(大丈夫……私は大丈夫……)


衣(……? 充溢するかと思えば、瞬時に霧散した今の気。……衣が和了るのが最優先だが、ここに至っては見逃せぬか)


咲(……)




――――――




えり「静かな試合運びですが、10巡目の段階で全選手が二向聴以上に手を進めています」

照「……天江選手がいることを考えると、共に二向聴の高鴨選手と宮永選手が敢えて手を崩していると言った方が妥当でしょう」

えり「そうですか。……手を見る限り、高鴨選手は三色を。宮永選手は一九牌を集めての対子形を狙っていると思われますが?」

照「私もそう思います。高鴨選手はチャンタもあるでしょうが、宮永選手はとにかく対子刻子を集めて得意技の嶺上開花を……或いは、七対子もあるかもしれません」

えり「宮永選手は親番なので、2位3位の二人よりは選択肢が広いですが。それだけに臨機応変な立ち回りを要求されますね」

照「大星選手は一向聴から手が進む気配がありません。ですが、誰がどんな形でこの緊張を破ってもおかしくはないでしょう……」




――――――




淡「……」


穏乃「……」


衣「……」


咲「……」


淡「……フー」


穏乃「……」


衣(……テンパイ。だが……)


咲「……」




――――――




淡「……」


穏乃「……」


衣「……」


咲「……」


衣「ポン」


淡(またなにか仕掛けてる? 海底狙いでもなさそうだけど……ツキがない局は、現物優先で慎重にいくか)


穏乃(あと3巡しかない……でも、絶対に引く!)


衣(……)


咲(…………)




――――――




淡「ノーテン」


穏乃「……ノーテンです」


衣「テンパイだ」


咲「テンパイ」



大星淡 38700

天江衣 35300

高鴨穏乃 19900

宮永咲 6100




――――――




淡(サキは……また対々か。衣は……リーチかけるか海底で和了るかしてれば私をまくれたっぽいけど、二の足踏んでる内は怖がる必要もないかな)


淡(……いや、ここまで来て他家を気にしてなんていられない。予定通り抜け出したのは私なんだし、このままラストまで逃げきってやる!)


穏乃(やっぱり狙いすぎたかな……。……ううん、選んだルートに後悔はしない! 山と違って引き返せるわけでもないし!)


穏乃(幸い大星さんとの点差は開かなかったし、またやり直しだねっ! まだまだこれから!)


衣(衣の予感が正しければ、彼奴は倍満程度の手を作っていたはず。ドラなしとすればチャンタに三色。ダマであれば一盃口も有り得たか)


衣(いずれにせよこの点差ならば、和了るだけで勝利は必定。最後の最後に真っ向勝負とは、可笑しなものだ!)


咲(……)


咲(……………………)




――――――




えり「まさに、息詰まる攻防が繰り広げられています。一向聴で止まったとはいえ、高鴨選手の大胆な手作りには私たちも思わず息を呑みました」

照「……宮永選手も、これまでと比べて手は作れています。1位との差が詰まってきたことによる天江選手と高鴨選手の緊張を、上手く利用しているようです」

えり「しかし、トップは依然大星選手。僅差で2位の天江選手が和了らない場合、高確率でこの選手が優勝して対局を終えることになります」

照「流局での対局終了もあるルールなので、とにかく和了らないと天江選手は勝てませんね」

えり「高鴨、宮永両選手の優勝はやや厳しいかというところですが、今の手作りを見た後ではそうと決めきれないところもあります」

照「後半戦で幾度も勝負をかけリードを奪った大星選手、ここぞの場面で勝負を仕掛け他家に牽制を加えつつ好位についた天江選手」

照「早めに仕掛け点を奪いなおも逆転を狙う高鴨選手、そして、序盤から厳しい状況にあった宮永選手も、よく踏ん張っています」

えり「宮永選手、いま白を發と共に対子で揃え一向聴。無理をせずとも、役牌二つで手を作れるいい手牌ですね」

照「……いや待ってください。既に槓子を一組作っていて、他の手牌も……」

えり「さあ、ツモがもうひと回りして……あっ!」

えり「宮永選手、このツモは……!」

照「……まさか、」




――――――




咲「カン」


淡「は?」


穏乃「……!」


衣「な……っ」




――――――




えり「宮永選手、四索をツモって暗カンを宣言! 先ほどのツモでテンパイしているので嶺上開花も……」





照「いや、まだ……」




――――――




咲「もいっこ、カン!」


淡「……!!」


穏乃「……」


衣「……っ!」




――――――




えり「嶺上牌の七筒をカン材に使い、二連続の暗カン! カンドラは……白! 白です!」





照(……咲!)




――――――




咲「ツモ」


淡「……ッッ」


穏乃「……」


衣「…………」




咲「ツモ対々、三暗刻、白、ドラ3嶺上開花」




咲「8000の二本場は8200オール。……和了やめです」



宮永咲 30700

大星淡 30500

天江衣 27100

高鴨穏乃 11700




――――――




えり「み、宮永です! 宮永、宮永咲がここで出てきました!」

えり「勝ったのは宮永咲! 宮永咲! 小鍛治健夜以来、年間無敗での八冠を達成!」

えり「照さん! 妹である宮永選手が、見ての通り鮮やかな逆転劇を……」

照「…………っ」

えり「あの、照さん?」

照「……っく、くっ、くぅ……ぅぅっ!」

照「……ごめんなさい。いまっ、い、今だけは…………ごめんなさいっ」

えり「……実況の私も、思わず感動したと言いたくなるほど見事な和了でした。名残惜しいですが、そろそろ実況解説を終了し各選手へのインタビュー中継に移らせていただきたいと思います」

えり「解説は宮永照選手。実況は私、針生えりでお送りしました。ありがとうございました」

照「……グスッ」





~~~~~





照「……思い返すと、あのときは解説として失格だった。咲のことが気になって呆けちゃった局もあったし」

照「うん、そのことは知ってる。妹想いだって世間に思われても気にはしないけど、最後に泣いちゃったのは自分でも恥ずかしかったかな」

照「……私から聞いても同じだよ。もしかすると、咲自身あの局でどうやってあそこまで持っていけたか覚えてないのかもしれない」

照「『自然と道が開いてた』とか『牌が応えてくれた』とか、抽象的なことばかり。……咲らしいといえば、らしいけどね」

照「……えっ? 家族麻雀ではどっちが優勢だったのか、って……?」

照「…………」

照「……秘密、です……」




――――――









咲「さあ、夢を見よう。」 (下) に続く

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  1. 2015/08/17(月) 13:53:38|
  2. 自作SS~咲-Saki-~
  3. | コメント:0
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